懐かしくもあり時代の遺物、活版印刷の本が郷愁を誘う [世相雑感]
ことし生誕120年、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に印象的な場面がある。
貧しい少年ジョバンニが学校帰りに寄って働く印刷所。
原稿を渡されて「粟粒ぐらい」の活字を壁の棚から次々と拾い、日払いの銀貨を手にする。
鉛の活字を大小手作業で組み合わせ、印刷機にかける。
昭和の時代まで当たり前だった活版印刷の光景に、賢治は何を託したのか。
どんな刷り物も本も、土台となる苦労と汗あってこそ。
そう考えていたのかもしれない。
かの名作で、主人公と銀河を旅する友人がカムパネルラだ。
その名を冠した活版印刷体験の工房が尾道にあると聞き、立ち寄った。
自分と家族の名の活字をぎこちなく棚から拾い、箱に詰めて手押しの機械をガシャン。
仕上がったネームカードを恐る恐る見る。
手触りは温かい。
所々かすれたインキに微妙な凸凹・・・。
字体もレイアウトも電脳で苦もない今、昔ながらの活字を生かすオリジナル印刷物が各地でブームなのもうなずける。
熊本地震では、賢治が生まれた時代に創業した印刷所で膨大な活字が散乱し、棚に戻すボランティアが地道に続いたらしい。
読書の秋。
昔の苦労を知るため、古書店で活版印刷の本でも手にしようか。
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